【徹底解説】GIGAスクール構想とは。
その目的や背景、現状や問題点を解説します

2021年5月26日

  • GIGAスクール

文部科学省が打ち出した「GIGAスクール構想とは何か」について、その「目的」「背景」「現状」「問題点」「対象」「いつから」「事例」などの視点から、わかりやすく簡単に解説します。

新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、計画前倒しで整備されることとなったGIGAスクール構想。
2020年度中に約98%の自治体(公立の小中学校 / 特別支援学校)で学校内のICT環境が整備されるという、当初の想定よりも短い期間でGIGAスクール構想が推し進められましたが、まだ課題も残っています。

GIGAスクール構想の背景や、ICT環境が整うまでの経緯を振り返りながら、現時点でのGIGAスクール構想の課題について取り上げます。

GIGAスクール構想とは?文部科学省が推進する、その目的・現状・対象を解説!

GIGAスクール構想とは、義務教育段階にある全国の小学校・中学校におけるICT環境を整備する中で、児童生徒用のパソコンやタブレット端末を1人1台使えるようにし、そのパソコンをインターネット環境につながるようにするための校内LANや無線LANなどの高速大容量の通信ネットワークも一体的として整備する構想で、その整備にかかる費用を国が補助する制度で、文部科学省が主体となって取り組んでいます。高等学校は義務教育ではないため、予算措置としては、高校生のパソコン端末整備は対象外となっています。

2019年12月13日に閣議決定され、2020年1月30日に補正予算案が成立しました。2019年(令和元年)度の補正予算を含めて、初年度となる2020年度予算は2,318億円が計上されました。

2020年4月には、新型コロナウイルスにより休校措置が長引くことを踏まえて、2023年度を目標としていた児童生徒1人1台のPC端末整備について、比較的導入しやすいGoogleのChromebookなどの普及もあり、2020年度内の完了に前倒しをしています。その結果、端末を家庭学習にも活用できるよう、モバイルルーターの無償貸与や教員用のカメラやマイクの整備など、遠隔教育が可能なICT環境の整備が一気に加速しました。

GIGAスクール構想の目的には、「多様な子供たちを誰一人取り残すことのない、公正に個別最適化された学びを全国の学校現場で持続的に実現させること」とされています。

GIGAとは、「Global and Innovation Gateway for All」の頭文字をとったもので、Society 5.0 時代を生きる子供たちの未来を見据えて、社会環境の変化の激しい世の中でも順応していけるようにICT機器を活用した新しい教育への転換の意味合いが込められています。

そもそも、なぜICT教育が必要になるか、については以下のコラムに綴ってますのでご覧ください。
▶いまさら聞けないICT教育!基本知識・課題・得られる効果を徹底解説!!

それでは、GIGAスクール構想の理解を深めるためにメリットとデメリットについてご紹介します。

GIGAスクール構想のメリット

GIGAスクール構想のメリットとしては、以下が挙げられます。

・生徒一人ひとりの状況に合わせた学習環境の提供
・プログラミング教育への貢献
・教職員の業務効率化

それでは、1つずつ見ていきましょう。

生徒一人ひとりの状況に合わせた学習環境の提供

GIGAスクール構想を推進することで、生徒一人ひとりの状況に合わせた学習環境の提供が可能になります。生徒の学習進捗に合わせた学習環境を用意することができるため従来の一斉学習では実現できなかったきめ細かい教育を提供することができるようになります。
また、大勢の前で話すことが苦手であっても、デジタルデバイスによるコミュニケーションであれば自分の考えを発言しやすいという生徒もおり、主体性を引き出すチャンスとなります。

プログラミング教育への貢献

小学校のプログラミング教育が2020年から必修化されました。文部科学省のもとGIGAスクール構想によってICT機器が整備されることで、生徒がパソコン環境に触れる機会が増え、プログラミングへの興味を引き出したり、学習機会を拡大できる可能性があります。

教職員の業務効率化

GIGAスクール構想によって、ICT環境が整備され教材がデジタル化されていく中で、教員同士の情報共有が行いやすくなりました。また、生徒からの回答などもデータで集めることができ、集計や管理が効率化することが期待されています。

GIGAスクール構想のデメリット

次に、GIGAスクール構想のデメリットを紹介します。

・生徒の父兄に対する説明
・教員から理解と協力を得る苦労

それでは、一つずつ見ていきましょう。

GIGAスクール構想の目的や意義を生徒の父兄に説明し理解を得る必要がある

GIGAスクール構想で実現される教育環境は、生徒の父兄が経験したことがないものであるため、中にはパソコンやタブレットを生徒が使うことに対して不安を感じる人もいます。そのため、GIGAスクール構想の目的や考え方、具体的にどういったことを進めていくのかを説明する必要があります。

教員からGIGAスクール構想に対する理解と協力を得る苦労

GIGAスクール構想で実現される教育環境は、教員にとっても新しいものとなります。デジタルデバイスの取り扱いが不得意な教員もいる中で、GIGAスクール構想に対する理解をしてもらうと共に、新しい環境においても生徒の学習がしっかりと進むように協力を得る必要があります。

GIGAスクール構想の概要・その問題点とは?

GIGAスクール構想実施より10年以上前、2009年に文部科学省らが提唱した「スクールニューディール構想」により、全国の小中学校の耐震化の整備やICT機器の更新が一斉に行われ、教室にはデジタルテレビや電子黒板などの大型提示装置が設置されました。

スクールニューディール構想実施後に表面化した課題が下記の通りです。
・耐震化や太陽光発電システム等の設備系の整備を優先し、教育ICTの整備・更新は大型提示装置だけにとどまった学校が多い。
・根本的に教育ICTの何を購入して、現場でどう運用・活用していき、子どもたちにとってより良い教育を提供するかの全体イメージの提示が文部科学省からはなく、その浸透に苦慮した。
・その結果、大型提示装置が導入されたが、うまく活用できないという事例が発生した。

スクールニューディール構想で導入されたICT機器といえば、指導用ノートパソコンの他に、電子黒板・デジタルテレビ等の大型提示装置が、教室やフロアに各1台程度配置されました。
今回のGIGAスクール構想では、ほぼすべての公立小中学校で「児童生徒1人に1台端末」が配布され、学校内に高速大容量の校内LANが整備されました。
全国の小中学校の約98%では、2021年度から1人1台端末を活用した授業や学校運営が一斉に始まるということになります。
教育現場の先生方には、次のようなことが新たな悩みの種となることが懸念されます。

・整備された端末を、どの単元の、どの授業で、どのように活用するかを考え、準備するのが大変
・先生用端末は、GIGAスクール構想以前に調達したWindows端末。生徒のために導入されたのはGoogle ChromebookやiPadで、OSが混在して使い勝手が異なることもある
・教師も児童生徒も端末の操作に慣れていない場合、用途によってはアナログよりも時間がかかってしまうこともある
・ソフトウェアがたくさんあり、どれから使い始めればいいかわからない

ICT環境が整い、児童生徒1人に1台のタブレット端末が配布されていても、先生がどう使ったら良いか分からないという課題が結局スクール・ニューディール構想のときから、未解決のまま残されているのです。文部科学省が積極的にイニシアチブをとって課題解決に向かうことが期待されます。

GIGAスクール構想のGIGAは「Global and Innovation Gateway for All」の略称で、直訳すると「すべての人のためにグローバルで革新的な入り口を」という意味です。
整備したICT機器を学校生活で有効活用することが、GIGAスクール構想の第一の課題と考えます。

予算の問題だけではない。教員のITリテラシー向上が急務

ICT機器を活用し、子どもたちにより良い学びを提供するためには、まず先生が「当たり前のように日常的にICT機器を使える」ようにすることが重要とされています。
デジタルネイティブな子どもたちはスポンジのように何でも吸収していき、それを周りの仲間にも伝わっていくこともあり、端末に慣れるのもそう時間はかからないことでしょう。
一方で、先生方はいかがでしょうか。
これから推進されていくEdTech(エドテック / EducationとTechnologyを組み合わせた造語)が代表されるように、教育現場のイノベーションが次々と企画開発され、それが教育現場に入ってくることもあり、このスピードに着いて来られない可能性も考えられます。

先生方が日常的にICT機器を使えるようにするために、例えば下記のような取り組みを行うケースがあります。
・民間企業の外部人材によるICT支援員の整備
・ICT活用教育アドバイザーによる説明会やワークショップ開催

研修や外部の支援者によって、教員自身がITリテラシーを向上させていき、ICT機器を当たり前のように活用できる体制を整えていくことが急務といえます。

日本のICT教育は遅れている?世界のICT活用格差

そもそもなぜ学校にICT環境を急いで整える必要があるのかというと、日本は他国と比較してITリテラシーが決して高いとは言えない状況にある中で、これからの社会を生きる子どもたちには、ICT活用能力を発揮していくことが求めらているためです。
「OECD 生徒の学力到達度調査2018年調査」(PISA2018)の結果を見ると、「数学リテラシーと科学的リテラシー」については全79参加国・地域中、日本がトップ10に入っており、世界トップクラスといえます。

ただし、読解力においては15位で、前回2015年調査時と比較して得点もランキングも落ちています。

ここで定義されている読解力とは、「①情報を探し出し」「②意味を理解し」「③評価・熟考する」こと。まさに、Society5.0時代を生きる子どもたちに求められる「様々な情報の中から、自ら課題を見つけ出し、それを解決するための情報を集め分析し、新しい価値を生み出せる人」と重なります。

またICT活用調査で、日本はICTを利用する児童生徒が少なく、OECD平均よりも低い結果となっていることがわかります。学校・学校外でのデジタル機器の利用では、OECD加盟国中最下位です。
PISA2018の読解力で日本より上位の国は、日本がGIGAスクール構想を推進するよりも、もっと昔から生徒1人1台端末整備などのICT環境整備がされており、学校でのICT活用が日常化している国が多いように読み取れます。

以上のことから、読解力=Society5.0時代で求められるスキルを育むために、日本はよりICTを活用していくことが大切であるといえるわけです。

なぜ、小学校、中学校におけるICT環境整備のスタートが遅れてしまったのか

ICT設備を整えることで、将来にわたって日本全体のITリテラシーを底上げできることが分かっていた中で、なぜICT環境整備が推進されずに遅れてしまったのでしょうか。

GIGAスクール構想が実施されるまで、日本の学校でのICT環境の推進が進まなかった原因のひとつとして、「予算の確保が難しかった」ことが挙げられます。

地方財政措置がありましたが、この予算は地方自治体が自由に使える予算であるため国で使途を制限できず、災害対策や別の行政サービスに充てられることもあります。そのため、教育ICT整備に限られた予算を割くには納得のいく説明が求められますが、
学力向上にICT環境を整えることが有効である等のデータが不十分であることが理由で、予算化につなげにくいという課題があります。

さらに、日本の少子高齢化の影響が、学校のICT整備の予算化を難しくしてきた背景も考えられます。
高齢者向けサービスの充実を優先することも急務であり、ICT整備予算の確保の優先度が年々下がっていったこともあるのではないでしょうか。

晴れて予算化しICT整備できたとしても、スクールニューディール構想のときのように「ICTを学校生活で使いこなせない」という苦い経験もあり、せっかくICT環境を整備したのに使われない状況になってしまう憶測を呼ぶ可能性も否定できません。

このような事象がいくつも折り重なったことによって、国内全体として教育のICT化推進が諸外国と見比べてみると遅れてきてしまったといえます。

これらの反省を踏まえ中で、GIGAスクール構想が開始され、後述するようにコロナ禍の特殊事情も相まって、想定よりも急ピッチで端末整備がすすみ、令和4年末段階で、ほぼ1人1台の状況が99.9%の自治体で整い、未整備な自治体も残り2自治体となりました。

[参考]義務教育段階における1人1台端末の整備状況(令和4年度末時点)※文部科学省

高校におけるGIGAスクール構想の進展

前述のように令和2年度(2020年度)までの補正予算により、GIGAスクール構想における小中学校の1人1台端末の整備が急ピッチで進み、令和4年末段階で、ほぼ1人1台の状況が整いました。

その一方で補正予算の対象とならなかった高校におけるGIGAスクール構想のもとでの情報端末の整備状況はどのようになっているのでしょうか?

文部科学大臣、デジタル大臣がメッセージを出しているように、高校でのGIGAスクール構想の実現も重要施策との認識のもと、義務教育機関には遅れを取りながらも、1人1台の端末整備が急ピッチで進められています。

自治体によって整備の進度にばらつきがありますが、令和5年当初段階で、全国平均の情報端末の導入率は、約104.88%となり、一部の地域では生徒数を超える端末が整備されることになりました

[参考]高等学校における学習者用コンピュータの 整備状況について (令和5年度当初)※文部科学省

しかしながら、令和5年度当初において、端末の整備が一番進んでいる県は京都府で、導入率は約147.46%、端末の整備が一番進んでいない県は埼玉県で、導入率は約77.20%となっており、地域差も顕在化しています。

また、生徒が自身の端末を持ち込むいわゆるBOYD端末で整備が進められているケースがあり、公費での完全な整備を目指す政策とは異なる実態があります。

例えば、BOYDのシェアが一番高い広島県は、生徒1人あたりの端末の普及率をみると、101.4%ですが、そのうちBOYD端末のシェアでみると、その比率は約98.66%となっており、ほとんどがBOYD端末となっています。

 BOYD端末は、保護者からの自己負担が求められることが多く、これが教育の機会均等に影響を及ぼす可能性がありますし、セキュリティ上の問題も内在することになります。

2024年に入り、政府や自治体には、適正なデジタル化の推進に向けて、さらなる支援と整備の加速が求められるでしょう。

GIGAスクール構想が前倒しに実現された経緯

教育でICT利用が盛んに行われている海外では、国策としてもICT教育を強力に支援してきた経緯があり、今では、教具の1つとしてICT活用が当たり前になっています。
とはいえ、今ICT教育が根付いている国であっても、ICT導入直後の頃は日本と同じようにその活用に多くの課題があったことでしょう。

国内では、先ほど紹介したPISA2018の結果を受け、文部科学省は「学校のICT環境整備の加速化に向けた取組の推進」を掲げ、「生徒1人あたり1台の学習者用端末と、学校内全教室の高速かつ大容量の通信ネットワークの整備を推進」し、学校内のICT環境整備=GIGAスクール(ネットワーク)構想の実現を提唱しました。

GIGAスクール構想は当初、小学校の学習指導要領の改訂が始まる2020年から4年間かけて全国の小中学校に対して補助金を提供し順次ICT環境を整備していく計画でした。

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により、全国的に休校措置を取らざるを得ない状況を経験した政府は、計画の前倒しを発表。2020年度中にGIGAスクール構想の環境整備を実施するための補正予算を組みました。

その結果、4年かけるはずだったGIGAスクール構想は、1年で全国98%の小中学校へ実施することができました。

GIGAスクール構想実施後の課題を解決するために

こうして前倒しに実施されたGIGAスクール構想によりICT環境は整備されましたが、先ほど述べた通りICT機器を使いこなせない課題を持つ先生にも、自治体が主体となり手厚くサポートしていくことが求められます。先生方のITリテラシー向上を支援し、ICT活用能力を児童生徒だけでなく、先生も身に付けていくことが大切です。

もう一つのやり方として仕組みや機材により解決させる方法もあります。

GIGAスクール構想が提示される前から教育ICTソリューション企業として活動してきた富士ソフトの「みらいスクールステーション」を導入すれば、テレビのリモコンで操作するようなイメージで、パソコンやタブレットの操作に馴染みのない先生方でも簡単に操作することが可能で、ICT教育をスタートさせるには最適の環境です。

また、みらいスクールステーションは、整備された1人1台端末を授業で有効活用する手段として、タブレット画面ミラーリング機能を搭載しています。
例えば、パソコン端末を授業で利用する際「教員用端末・児童生徒用端末の画面をクラス全体に共有したい」ことも多いでしょう。そんな時にはみらいスクールステーションの「画面ミラーリング機能」がおすすめです。
GIGAスクール構想で整備された端末のOS(Chrome OS / Windows / iOS)すべてに対応しているため、教員・児童生徒用端末でOSが混在していても問題ありません。
つまり、先生がWindows、生徒がChromebookのような環境下でも、安心してご利用いただけるのです。

また、整備された校内LANを有効活用する手段として、カメラで撮影した映像を教室にライブ配信する「校内ライブ放送機能」があります。全校へ一斉配信できることで、朝礼などで全校生徒を一か所に集める必要がなくなり、 コロナ禍の学校運営にも役立ちます。

みらいスクールステーションを導入することで、GIGAスクール構想の課題の一部を解決することができるようになります。また、小学校・中学校・高等学校(高校)の先生の働き方改革の一助にもなるはずです。

まとめ

ICTを活用すると、従来費やしていた時間が効率化され、別の時間に充てることができるようになります。
また、将来パソコンを使用する仕事に就く子どもたちの割合も、ますます増えていくことでしょう。

Society5.0時代を生きる子どもたちに求められるのは、「様々な情報の中から、自ら課題を見つけ出し、それを解決するための情報を集め分析し、新しい価値を生み出せる人」であり、これからの社会を支える子どもたちにとって、ICT活用能力は、必要不可欠な能力といえます。

今後は、ICTをどのように活用していくのかというGIGAスクール構想の課題と、ICT活用で効率化された時間をどのように有意義な時間とするかを考えていく必要があります。

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